⑲〈私の祈祷でなければ、叶わないのだ!〉
文永5年、蒙古からの国書が届き、その来襲が眼前に迫ると、日蓮は執権の北条時宗に次のような書状を送りました。少し長くなりますが、御容赦ください。
「先年、日蓮が諸経の要文を集めて論じたことは立正安国論の通り、少しも間違えることなく的中した。日蓮は聖人の一人であると言える。未来を知ることができるからである。今また、重ねてこのことを広く申し上げる。急いで建長寺、寿福寺、極楽寺、多宝寺、浄光明寺、大仏殿等への御帰依を止めなさい。そうしなければ、重ねてまた、四方から敵が攻めてくることになる。すみやかに蒙古国の人を祈祷によって抑え鎮め(調伏)、我が国を安泰にして頂きたい。蒙古の調伏は日蓮でなければ叶えることができない。……日蓮が述べていることを用いないならば、必ずや後悔することになる。このことを広く幕府要人に伝えたので、皆を一ヶ所に集めて評議の上、通知頂きたい。とにかく、すべての祈祷を停止して、諸宗を御前に召し合わせて仏法の正邪を決定して欲しい。……インド・中国・日本の三国における仏法の判定は、王の面前で行われてきた。いわゆるアジャセ王の時代、陳・隋の時代、そして桓武天皇の時である。こう述べるのは日蓮の曲がった私心からではない。ただひとえに大忠を抱いているからである。我が身のためにこれを述べているのではない。神のため、君のため、国のため、一切衆生のために申し上げているのである」
これほど端的に日蓮の目標、本音が語られた書簡はないように思います。これは、日蓮が佐渡に流される前ですから、日蓮には真実の法華経の行者といえる覚悟はまだありません。それでも、幕府・執権が主宰した討論によって、誰が正しい仏法を説いているか、白黒をハッキリさせるべきだ、と求めます。しかも、日蓮を国師としない祈祷では、国はさらに攻撃されることになる、と述べ、後悔しても知らないぞ、と執権を脅しているのです。
同様の書簡は、幕府の要人とともに、政権の帰依が厚い諸宗の高僧にも送られました。そこにも、日蓮の本音が表だって語られます。いったい、どのように語ったのでしょう。続きは次回に。(#020〈日蓮の誓い われ日本の柱とならむ!〉)
江間浩人(2017.7.1)
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