『日蓮誕生——いま甦る実像と闘争』No.034

Ⅳ 日蓮仏法論

 

〈南無妙法蓮華経とは〉


唱題を武器に、念仏へ殴り込む

日蓮が唱え広めた南無妙法蓮華経は、南無阿弥陀仏の称名念仏の流布に対抗して、法華経信仰を再興するために打ち出された新たな法華経信仰の方法でした。この点について、日蓮はどう述べているでしょうか。

 

まず、過去に法華経を広めた南岳大師(慧思、五一五-七七)・天台大師・伝教大師も南無妙法蓮華経と唱えていない、という批判に対して日蓮は、こう反論します。

 

「これらの大師等も南無妙法蓮華経と唱えることを自行真実の内証とお考えになっていた。南岳大師の法華懺法にいわく『南無妙法蓮華経』、(中略)伝教大師の最後臨終の十生願の記にいわく『南無妙法蓮華経』云々」

 

では、なぜ天台・伝教は、唱題を広めようとしなかったのか。これについて日蓮は、時が来ていなかったからだ、と述べた後で、こう論じます。

 

「権経の題目(念仏)が流布すれば、実経(法華経)の題目もまた流布すべし」

 

権経とは、法華経と比較して、仮に手立てとして説いた阿弥陀経などの経典を指します。日蓮は、称名念仏の流布こそが唱題の流布を準備したのであり、念仏の次に唱題が流布するのは必然だったというのです。さらに、唱題を広める日蓮自身の独自性を、端的にこう述べました。

 

「いまだ阿弥陀の名号を唱えるがごとく南無妙法蓮華経と勧める人もなく、唱える人もなし」

 

「法華経を読む人は有りしかども南無妙法蓮華経と唱うる人は日本国に一人もなし。日蓮はじめて建長五年夏の始より二十余年が間・唯一人・当時の人の念仏を申すように唱う」

 

日蓮こそ、史上唯一の唱題の提唱者であるという、誇りと自信に溢れています。唱題の流布は歴史的必然なのだと確信し、それを成し遂げた僧こそ私である、と日蓮は高らかに宣言しているのです。この誇りと自信から、日蓮は、先行する念仏信仰を激烈な言葉で責め立て、法華経への改宗を迫っていきました。

 

いわく「念仏無間」。これは「念仏を唱えれば必ず無間地獄に堕ちる」という意味です。そして浄土教の教主たちが、いかに断末魔の苦しみの中で世を去っていったか、その恐ろしい死に様を語り聞かせていきました。念仏を唱えれば、極楽往生できると信じる人々に、この日蓮の説法はどれほどの衝撃を与えたことでしょう。ここまで過激な悪口は過去に聞いたことがない、と思えるほど、日蓮の念仏に対する批判は激しいものでした。

 

江間浩人

 

—次回8月1日公開—

 

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