本を読む #037 〈ハヤカワ・ミステリ『幻想と怪奇』、東京創元社『世界大ロマン全集』、江戸川乱歩編『怪奇小説傑作集』〉

㊲ハヤカワ・ミステリ『幻想と怪奇』、東京創元社『世界大ロマン全集』、江戸川乱歩編『怪奇小説傑作集』

小田光雄

 

 紀田順一郎の『幻想と怪奇の時代』(松籟社)によれば、「幻想怪奇文学への関心が、具体的な出版という形で芽生えたのは、何といっても一九五六年に英米怪談の集成『幻想と怪奇』(全二冊)が、『ハヤカワ・ミステリ』に編入されたことからである」とし、その書影も掲載されている。

 

 この2冊は私も所持しているけれど、読んだのは半世紀前なので、ほとんど記憶に残っていないが、世代差と短編集ゆえもあってか、紀田のいうところの印象は受けなかったと思う。あらためて手にしてみると、この2冊は原書の書影がわかるように、アメリアのモダン・ライブラリイ版の千ページを超えるアンソロジー怪談集 Great Tales of Terror and the Supernatural などから編まれたものである。早川書房編集部編となっているが、解説はいずれも「編集部M」と記されていること、及び訳者として都筑道夫の名前も見えることから、都筑の編集によると考えていいだろう。

 

 この『幻想と怪奇』に続いて、紀田は東京創元社の『世界大ロマン全集』における『魔人ドラキュラ』(平井呈一訳)の刊行を挙げ、画期的な称賛を得たと述べている。それを受けて『世界大ロマン全集』には江戸川乱歩編『怪奇小説傑作集』2冊が追加されたが、その実質的な編集と翻訳は平井が担い、荒俣宏は中学生時代にこれを読んだのをきっかけとして、幻想怪奇文学への道を歩み出したという。

 

 つまり前回の『世界恐怖小説全集』の成立も、『幻想と怪奇』、及び『世界大ロマン全集』の流れを引き継いでいることになる。そこで今回は乱歩編『怪奇小説傑作集Ⅰ』を含め、『世界大ロマン全集』を30冊ほど入手しているので、これらに言及してみたい。

 

 この全集は1956年から59年にかけて全65巻が出され、同じ平井訳で、マリ・コレリ『復讐』、植田敏郎訳で、エーベルス『吸血鬼』も含まれている。『世界大ロマン全集』の明細はやはり『東京創元社文庫解説目録[資料編]』に収録され、その詳細を確認できる。また手元に『世界大ロマン全集』も目録もあるが、これは14ページに及び、谷崎潤一郎を始めとする「推せんの言葉」も寄せられ、「刊行のことば」として、「歴史小説、冒険小説、家庭小説をはじめ、探偵、ユーモア、空想科学小説に到る広範な種類の傑物がことごとく収められ」た「世界の大ベストセラーの集大成」と謳われている。この内容見本では全50巻とされていたから、それが65巻に増補となったのは売れ行きもよかったし、好評だったからであろう。

 

 その24に当たる『怪奇小説傑作集Ⅰ』は確かに平井呈一訳と明記されているけれど、『同Ⅱ』は同じく乱歩編だが、宇野利泰訳とあるので、平井が編集に関わったかもしれないにしても、編集と翻訳の双方を担ったのは前者だといえよう。しかもその英語タイトルはGreat Stories of Horror and the Supernatural と銘打たれ、それは明らかに先行する『幻想と怪奇』を意識しているし、箱裏表紙には次のようなキャッチコピーが付され、これは平井の手になると見なせよう。

 

   欧米では推理小説と並んで怪奇小説の傑作集が広く愛読されているが、わが国に於るこの分野の作品には殆ど未紹介に近く、本格的なアンソロジーは本書が初めてである。異次元の世界の怪物やおそるべき呪の話、妖怪や怨霊或は憑きものや運命の恐怖を描いた物語は読者を幻想と超自然の世界へと誘っていく。

 

 そして小B6判の本邦初の怪奇小説の「本格的なアンソロジー」を開くと、「序文」にあたる江戸川乱歩の「西洋怪談の代表作」が寄せられ、1948年から49年にかけて書き、『幻影城』に収録した「怪談入門」のことから始めている。これは紀田が「わが国ではじめて幻想怪奇小説を系統立て、研究的なエッセイ」として読み、「異常な感銘を受け」たものである。乱歩は「怪談入門」の紹介により、それらの作品が「諸方で邦訳されたので、なるべく未訳のものをという方針で(二、三の例外はある)、この『怪奇小説傑作集』ⅠⅡを編纂した」と述べている。ここでその『同Ⅰ』のラインナップを挙げておくべきだろう。

 

 * ブルワー・リットン「幽霊屋敷」

 * ヘンリ・ゼイムス「エドマンド・オーム卿」

 * M・R・ゼイムス「ポインター氏の日録」

 * W・W・ジャコブス「猿の手」

 * アーサー・マッケン「パンの大神」

 * E・F・ベンスン「いも虫」

 * アルジャーノン・ブラックウッド「秘書綺譚」

 * W・F・ハーヴィー「炎天」

 * M・P・ラヴクラフト「アウトサイダー」

 

 これらの作者に関して、平井はそれぞれの作品の巻頭で、丁寧な紹介を試み、怪奇小説の「本格的なアンソロジー」の範たらしめようとしている。例えば、リットンの「幽霊屋敷」について、「今日からみると一見奇矯古怪なその幽霊哲学には、当時を風靡したメスメリズムの影響の跡が見られる」と指摘し、怪奇小説の背景を伝えている。

 

 乱歩は先の「序文」を「もし読者が歓迎されるならば、第三、第四の『怪奇小説集』を編纂したいものである」と結んでいる。しかしそれは実現しなかったけれど、前回の『世界恐怖小説全集』へと引き継がれ、結実していったと考えられよう。

 

—(第38回、2019年3月15日予定)—

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