タイトル 吉本ばななの文学と中国
サブタイトル 『キッチン』を中心に
刊行日 2024年5月20日
著者 鄭 秋迪
定価 2800円+税
ISBN 978-4-8460-2386-7
Cコード C0095
ページ数 312
判型 四六
製本 上製
内容
本書は、中国で吉本ばななの文学に魅せられて研究を始め、日本に留学して書いた鄭秋迪(テイ・シュウテキ)の博士論文が元になっている。鄭(テイ)の関心は、中国で吉本ばなながどのように受け入れられているかだ。吉本ばななは、一九九〇年代、日本で大流行し、その作品はいくつも映画化もされているが、その評価はさまざまともいえる。それは、中国でも同様で、否定的な評価もある。鄭は、その中国での評価を研究することで、吉本ばななの作品の本質に迫ろうとする。その中心に取り上げるのは、ばななの代表作『キッチン』である。
 鄭は、インターネットなどの評価、そして独自のアンケートを行い、統計をとる社会学的調査と、その評価の言葉を詳細に分析し、過去の中国での吉本ばなな研究を参照する。そして、吉本ばなな自身のインタビューなどの発言、そして父である詩人・批評家の吉本隆明との対話なども参照しながら、作家吉本ばななの思考、思想を解き明かそうとしている。
吉本ばななの作品の、癒し、温かさ、死と救済、家族、超能力などに注目しつつ、ばなな独自の表現の「好きっていう場」「半独語」「誘いコミュニケーション」「即非の文学」などを分析するところが面白い。
 1990年、中国河南省信陽市に生まれた鄭秋迪(テイ・シュウテキ)は、2014年6月に南京師範大学外国語学院の日本文学専攻修士課程を修了し、日本に留学した。関東学院大学大学院で、日本文学、特に作家、吉本ばななについて研究し、2020年9月に文学研究科比較日本文化専攻博士後課程を修了し、2022年3月より中国の南京師範大学で、外国言語文学博士を取得後、研究員をつとめている。
 本書は、吉本ばななのファンや日本の現代文学ファンのみならず、中国の日本現代文学の受容、さらに日本と中国の文学に対するとらえ方の違いなどに関心がある読者にとって、必読の書といえるだろう。
著者紹介
中国南京師範大学外国言語文学博士後研究員(文学博士)。専門は日本文学・日本語教育・平和反戦(教育)等。1990年、中国河南省信陽市生まれ。2014年6月、南京師範大学外国語学院日本文学専攻修士課程修了。2020年9月、関東学院大学大学院、文学研究科比較日本文化専攻博士後課程修了。2022年3月より現職。主要論文「吉本ばなな『キッチン』『満月』における『関係性』と『癒し』」(『KGU比較文化論集』8号・2016年)「中国における吉本ばなな文学の受容 : 『キッチン』を中心として」(『解釈』65号・2019年)「現代日本の絵本における反戦意識」(『アジア言語文化研究』4号・2023年)などがある。
目次
はじめに
第一章 これまでの研究
 1 作家・吉本ばななとは
 2 日本と中国の吉本ばなな研究
第二章 吉本ばななの中国での受容
 1 「吉本波七」として
 2 「吉本香蕉」として
 3 「吉本芭娜娜」として
 4 吉本ばなな文学輸入の契機
 5 翻訳者の選出
 6 吉本ばななの版権
 7 吉本ばなな受容の背景
第三章 中国の読者は『キッチン』をどうとらえたか
 1 読者の感想と評価―「豆瓣読書」サイトと「新浪微博」ブログ
(1)「癒しや温かさについて」
(2)「死について」
(3)「テーマの重複について」
(4)「否定的意見」
(5)「ムーンライト・シャドウが好き」
(6)「翻訳が悪い」
 2 吉本ばななの中国での知名度と評価―アンケート調査から
 (1)アンケートの概要と目的
 (2)アンケートの対象
 (3)アンケートの方法
 (4)質問項目と理由
 (5)アンケートの結果分析
第四章 吉本ばななの中国での受容―研究と背景
 1 改革開放後の中国における日本文学の翻訳
 2 中国の吉本ばなな文学に関する書籍
 (1)周閲著『吉本芭娜娜的文学世界(吉本ばななの文学世界)』
 (2)『吉本芭娜娜的文学世界』の構造
 (3)商業性―周閲の指摘
 (4)家族―周閲の指摘
 (5)超能力―周閲の指摘
 (6)死と救済―周閲の指摘
 3 中国における吉本ばななに関する論文
 (1)論文の特徴
 (2)吉本ばななと作家・遅子建との比較研究
 (3)吉本ばななと作家・徐坤との比較研究
第五章 吉本ばななの中国での受容―映画化と背景
 1 香港映画『我愛厨房(キッチン)』
 2 映画監督・厳浩(イム・ホー)
 3 「香港新浪潮電影」(香港ニューウェーブ映画)とは何か
 4 厳浩が『キッチン』を映画化した理由
 5 香港映画『我愛厨房』と「九七問題」
 6 『我愛厨房』の興行成績と評価
 (1)評論家による感想・評価
 (2)鑑賞者による感想・評価―「豆瓣映画」サイトを中心に
 7 『我愛厨房』の分析と考察
第六章 中国における吉本ばなな文学の受容―「顧客制度」と「好きっていう場」
 1 「好きっていう場」
 2 「好きっていう場」――本人の資質と「親切さ」
 3 「好きっていう場」――「即非性」と「交換可能」
 4 「好きっていう場」――「交換可能(共鳴)」
 5 「好きっていう場」――「超能力」
 6 「好きっていう場」から読み解く吉本ばなな
 (1)「半独語」
 (2)「台所」
 (3)「誘いコミュニケーション」
 (4)「二項対立を越えて」
 (5)「モラハラ元彼」
 (6)「即非の文学」
終章


【参考文献】
附録1 2020年までに中国で出版されている吉本ばななの基本情報
附録2 2020年までに中国で発表されているー知網(学術論文データベース)で検索できる―吉本ばななの文学に関するすべての修士・博士論文の一覧
附録3 2020年までに中国で発表されているー知網で検索できる―吉本ばなな文学に関するすべての公刊論文の一覧
附録4 第五章で実施したアンケートの日本語版
附録5 第五章で実施したアンケートの中国語版
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